夜の職場に、いつも理解に苦しむような行動を取る子がいる。
もう5年くらいの付き合いで(と言っても、店以外では、稀に皆で食事した時にその子も来ているくらいで、二人で出かけたりしたことはない)、私はそれなりに心を許していた。
でも、どうしても心から信頼することが出来ない。
彼女はいわゆる、自分が常に中心でいたい、特別でいたい人。私は逆なので、それは気にならない。でも、時々本当に彼女のことがわからない。
例えば。
共通のお客さんの誕生日や、お祝いの時は、私は必ず彼女に『〇〇さん、**/**誕生日だから、メールした方がいいよ。ワリカンで何か買う?』と伝える。
ところが、あるお客さんの誕生日の時に、私はその人の誕生日を知らず、普通にその人に指名されて席についていた。しばらくすると彼女も席に来て、『〇〇さん、お誕生日おめでとう〜!』と。それまで何も知らずに席についていた私は、すごくバツの悪い思いをした。
これは以前書いたかもしれないけど、私の誕生日のこと。彼女は、けっこう値段のはるオーダーメイドのライターをくれて、私は一瞬感激した。ところが、次の瞬間。
『これね、〇〇さん(お客さん)が買ってくれたから、お礼言ってね☆』
私は耳を疑った。
誕生日プレゼントを、客に買わせるの?
私は、彼女の誕生日には、欲しいものをあげたいと思っていたので、値段がはっても構わずにプレゼントを買った。とはいえ、値段の問題ではなくて、そうしてあげたいという気持ちの問題なのだ。
その日の夜、『私は、誕生日プレゼントを自腹で買う価値もない友達なのかな?』と泣きながら旦那さまに話した。彼は、その子のことが大嫌いなので、『no, she just sucks.』と言っていた。
彼女は、お客さんやら友達の誕生日やイベントが近づくと、必ず『今金欠なの〜』という。でも、彼女はうちの店で上位5番に入るくらい稼いでいるし、自分のための装飾品やらの買い物はたくさんしている。借金でもしてない限り(してるのかな?)、人のために使うお金だってあるはず(自分には投資しまくってるわけだし)。
今回、友達にお祝い事があったので、みんなでお金を出し合ってプレゼントを買うことになった。みんな、一万円くらい出すと言っているんだけど、彼女はやはり『今、金欠なの〜』と言った。3000円も出せないらしい。
ちょっと待って。
このお祝いの話は、1ヶ月か、ヘタしたら2ヶ月くらい前から決まっていた。その時から、皆でお金を合わせて買おうね、と相談していた。前もって分かっていたのに、使うお金のコントロールも出来ないの?29歳にもなって?
この件で分かったのは、私の誕生日の時に、私のためにお金を出す価値がなかったわけじゃなくて、彼女は誰のためにもお金を使いたくないんだってこと。彼女は、お祝いされる女の子のことはとても好きなはず(誰にでも好かれるすごくいい子だし)。それでもそういう扱いなのだ。
あの時泣いた自分がバカバカしく感じた。中には、シングルマザーで生活の大変な女の子もいて、その子だって一万円出すと言っているのに…。
彼女の解せない行動は、挙げたらきりがない。
『なんとなく行きたくない』という理由で仕事は休むし(私も、世間をなめていた大学時代にはそうやって夜の仕事を休むことはあったけど、20代半ば以降はさすがにない)、皆で待ち合わせをすれば、必ず一時間や二時間は遅刻する。お客さんとの同伴でも、平気で一時間くらい遅刻する。そういう時の彼女のとっておきのセリフは、
『私、心を許してる相手だと遅刻しちゃうの』
そう言われたオヤジどもは、まんざらでもない様子。
一生懸命、彼女のことを好きになろうと努力したけど、やっぱり無理かもしれないな…と思う今日この頃。
お店のお客様が、行方不明になりました。
そのことが明確に分かったのは、今日でした。
数日前、店長に『あなた、○○さんと連絡取ってる?』と聞かれ、年賀状は出したけど、年末以来そういえば連絡がない、と告げると、『悪いけど、一回メールしてみてくれない?』と頼まれた。
仮にAさんとしよう。
Aさんは、恐らく独身(中には既婚を隠す人もいるけれど、Aさんに関しては、生活パターン等から見てもほぼ間違いなく独身だった)、年齢は40過ぎ。うちのお店は、私が在籍する六本木店と、銀座に2店舗、合わせて3店舗ある。Aさんは、全店舗に通っていた。六本木店には、もう3年以上通ってくれていた。
各店舗に指名している子がおり、六本木店では私と、もう一人の女の子を指名していた。
そして、年明け以降、銀座店の女の子たちがいくら連絡しても、音信不通だという。Aさんはいわゆる『いいお客さん』で、営業をかけなくても店に来てくれるし、休みの日の店外デートにも全く誘わない、アフターにも誘わない、携帯電話の番号・メールアドレスは教えないし、聞かない。女の子たちと連絡を取るのは、会社のメールアドレスのみで、つまり月〜金の日中のみ(自分が会社にいる時だけ)、時々メールをすれば良いだけ、という、とても楽なお客さんだった。
裏を返せば、私たちが知っているのは、会社のアドレスだけ(もちろん名刺は頂いているので、会社名・所在地などは分かる)。
店長に頼まれて、軽い気持ちでメールを出したけど、返事がない。そんなことは初めてだった。こちらがメールを出せば、当日中、もし退社していれば必ず翌日には返信をくれる人だった。なんだか、イヤな予感がした。
よくある話では、そのお店との縁を切ろうとして、女の子との連絡を一切絶つ、というケースもある。それは、夜遊びをやめるためであったり、他のお店にはまったからであったり(大体こっち)色々だけれど、Aさんの場合、とても律儀な人で、一言くらいは返事をくれそうなものだった。
私は、心配になって、もう一度メールしてみた。
『銀座の子も、私たちも、連絡が取れなくて心配しています。怪我や、病気でなければ良いのですが、もし無事であれば一言で良いので返事を下さい』
というようなことを書いた。
返事は、やはりなかった。
店長がそんな風に私に頼んだのには、理由があった。
ただ連絡が取れなくなったのであれば、上に挙げた1番目の理由、うちのお店に飽きたか、他の店にはまったというのが一番強い線だけれど、実はうちのお店に来ているお客さんが個人的に作った、うちのお店のファンサイトみたいなものがネット上にあって、Aさんはそこの掲示板に書き込みをするのが好きだった。
自分でも、『僕ねぇ、昨日書き込みしちゃったよ』なんてことをよく言っていたし、書き込みするときのペンネーム(?)も、私たちに教えてくれていた。
そして、年明けに、少し意味深な書き込みが、Aさんのペンネームでされていたのだ。
それは、まるで、遺書のような…もしくは、夜逃げでもする人のような、解釈によっては色々取れるものだった。
【○○(うちの店名)の皆さん、○年間お世話になりました。僕は○○(店名)にいる時が一番幸せでした】
というような、お別れの挨拶のようなことが、書かれていた。
私は、それを読んで背筋が寒くなった。とても、他のお店にはまったとは思えないし、Aさんは元々人見知りというか、なじみの場所にしか行かないタイプの人で、3店舗の通い具合からしても、他の店に行く時間はとてもないように思えた。
どうしても気になったので、今日になって、私は確かめてみることにした。
Aさんの名刺は、店に提出してあったので、店長に頼んで貸してもらった。そして、Aさんの会社に電話をしてみた。
本当に、ただうちの店との縁を切りたいだけという可能性も考えて、そうであれば私とも話したくないだろうし、出社していることさえ分かれば、それで安心できると思い、普段Aさんが退社したくらいの夕方に電話をかけた。電話に出た人に、今日Aさんが出社したか、もしくは、さりげなく明日は出社しているかなどを聞けばよい。
3〜4回のコール音に続いて、若そうな男性が出た。Aさんの声でないことが分かったので、私は偽名を名乗った。
『もしもし、鈴木と申しますが、Aさんはいらっしゃいますでしょうか?』
すると、電話の向こうの男性は、歯切れの悪い話し方になった。
『あ〜〜…Aですか…え〜…とですね、なんて言ったらいいんでしょう…少しお待ち頂けますか?』
と言って、同意すると保留音が流れた。私は、胸がドキドキして、携帯を持つ手が、冗談でなく少し震えた。口の中が乾いて、不安な気持ちでいっぱいだった。
『お待たせしました…。もしかして、Aのご友人の方ですか?心配してかけてきて下さったとか…』
こちらが何も言う前に、その男性はそう言った。私が、はい、そうです、と答えると、
『実はですね…年末、12月28日に業務を終えて以来、消息が不明なんです。親御さんも会社に見えて、話をしましたが、居場所がわからないんです』
私は、言葉を失った。とにかく、お礼を言って電話を切って、店に出勤した。
親御さんもAさんと連絡が取れないのですか、と聞くと、そうなんです、と言っていた。つまり、住まいにも戻っていないということなのだろう。
Aさんは、いつも機嫌よくニコニコと笑っている人で、仕事の愚痴も言わないし、冗談の好きな、人畜無害みたいな人だった。
どんな理由があるか分からない。でも、何があっても、どうか、Aさんが生きていますように。
12月、何も変わったところはなかった。いつも通り、笑って面白いことばかり言っていた。確か、普通に、良いお年を、ってお見送りをした。
どうか、何も悪いことが起こっていませんように。